■ 下律(2回調律)の話
突然に、「下律」とか「2度上げ」とか「2回調律」と言われましても、業界用語? 意味がわからないかもしれません。
これは全て同じ意味合いで、「下調律(下律)」と「本調律」の2回繰り返して「調律(チューニング)」をすることです。
調律師さんの間で「1回上げで行けた」とか「2回上げで落ち着いたよ」とか「3回調律したよ」などとよく会話が繰り広げられるのです。
よく会話に上るのは、「ピアノ」にも「調律師さん」にも「お客さま」にとっても重要なことだからです。
これは、ピッチの変更(音程を全体的に上げる、又は下げる)などの状況で、ピアノの調律や響きを安定させるために大切な行程です。
■ どうしてこんなに狂うの?
下律(2回調律)が必要な状況は「ピアノが不安定」で「調律が狂いやすい時」ですが、それは様々な状況で見受けられます。
まずは「ピッチ(音程)の変更」が必要な場合、さらに「チューニングピンが不自然な状態」になっていた場合、「弦のアグラフ(ベアリング)部に悪い癖」がついていた場合などです。
それらは、ピアノの音程(調律)の安定を極度に妨げてしまいます・・・・・なぜでしょうか?
はじめに「ピッチの変更」ですが、ピアノ弦の張力を大きく変更することによって「駒圧のバランス」が乱れます。
「駒圧」とは「響板(サウンドボード)」が「駒」を通して「弦」を押し上げている緊張関係のことです。
駒圧は「楽器の響き」に密接にかかわる重要な要素です。個体差はありますが「ピアノの駒圧」は全体で300kg以上あると言われています。
「調律の安定」と「響板の安定」は密接な関係があります。
新しくフレキシブルな「新品ピアノの調律が狂いやすい」ことも、「不定期調律のピアノ」や、「ピッチ変更の必要なピアノ」の調律が狂いやすいのも同じ「駒圧のバランス」の安定が関係しています。
また、「チューニングピンが不自然な状態」になっていた場合、「弦のアグラフ(ベアリング)部に悪い癖」がついていた場合、さらにチューニングピンを保持する「ピン板が傷んでいた場合」などは、"調律の放置"や"良くない環境"、"未熟な技術者による調整"、"製造工程のミス"など様々な状況があります。
■ 選択する調律師
ピアノ調律師は現場で選択を迫られます。それは「時間と作業工程のバランス」や「お客さまのご予算とピアノの状態」などについてです。
その状況で最善の選択ができるよう、多くの調律師さんは悩み、仕事の後にも正しい選択だったのか悩みます。
もちろん、"経験や知識"をもとに"確信をもって選択"できる状況も多いのですが、困難な条件での仕事は厳しい選択を迫られることもあります。
コンサートなど緊迫する状況に限らず、ピアノの状態が「多くの調整を必要としている場合」や「安定し難い場合」には、限られた条件の中で最善の結果になるように選択をします。
ピアノ本体に 「木材(響板類)の安定が必要な場合」や「不安定な環境に晒されている場合」など、本質的な解決のできない問題がある状況もありますが、お客さまの「ピアノについての一言」は本当に助かります。
「時間の配分」や「条件内での最善の調整」、「ピアノにとって最善の結果」などを選択する際に、優先事項を教えて頂けるからです。
お客さまの"ホッとした笑顔"を見せて頂けますように、調律師さん達は"選択"をしています。
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